夏に生まれた冬の名作:ケストナー『飛ぶ教室』

こんどこそ、正真正銘のクリスマス物語を書く。本来なら二年前

、とっくにできていたはずなのだ。遅くとも昨年のうちに書き終えていた。だが、世の常のことだが、いつも何かしら邪魔が入る。とうとうおふくろに言われた。「今年も書かないようなら、クリスマスプレゼントはあきらめてもらいます」

(引用元p13)

前書きから、面白すぎる。

なにせ、執筆はのびのびになり、真夏にクリスマスの物語を書く羽目になった、

と作者自らカミングアウトするところから始まるのだから。

 

その他にも、急な転調を見せこんな一文があったり。

とにかく、この前書き部分だけで十分に買う価値がある一冊だと思う。

世の方々よ、誤解しないでいただきたい!ことさらおセンチなのがいいなどと申しているのではない。たとえつらくとも正直であってほしいのだ。骨の髄まで正直であってほしいのだ。

(引用元p21) 

 

本編もも・ち・ろ・ん!素晴らしい。

詳しい筋書きの紹介は他のブログや書評にお任せするが、とにかく登場人物のキャラが立っている。

 

最後に、筆者の推し・ウーリ*1のセリフを引いて終わろう。

「だけどマッツ*2、いますぐにでも、きみと代わりたいよ。たしかに僕は書き取りではめったにまちがいをしない。計算だって困らない。でも、きみのような勇気があれば、きみのひどい成績だっていただくね」

(引用元p51)

 

【引用元文献】

エーリヒ・ケストナー(著)、池内紀(訳)『飛ぶ教室』(新潮文庫)

 

 

 

 

*1:頭脳明晰だが、小柄で非力・臆病な少年。進撃の巨人で言うアルミン・アルレルト的な。

*2:マティアス:力自慢で食いしん坊、だが仲間想いな良い奴